« 電気の危険ゴミ | トップページ | ケニアの青い空 »

月面レタス

《リード》
新しい農業のあり方を示唆する試みが広がっている。水耕栽培を進化させたコンテナ栽培である。

《本文》
 昨日TVを見ていたら、水耕栽培の植物工場で作られたレタスを野口悠紀雄氏(「超」整理法)が頬張っていた。なかなか美味そうだった。
 別の工場のようだが、今年5月には麻生前首相も視察したのだそうだ。レタスの生育に必要な温度・光・水・養分などの環境を、人工的に制御して栽培し、屋内栽培のため天候の影響を受けずに、安定的な生産を行える。また、無菌に近い状態での衛生管理が可能なため、無農薬栽培である。
 昨日やっていたのの元は、野菜栽培ベンチャー企業(京都の「フェアリーエンジェル」社?)のようだ。(でもTVでは三菱がすべて開発したかのような口ぶりだった……笑)
 「日経産業新聞」(8.21)によると「室内では青々としたレタスや小松菜が棚状のプラントに整然と並び、照明や液肥などの栽培管理は24時間自動制御。半導体工場に近いレベルのクリーンルームで、入室の際には全身にシャワーを浴びなければならない。野菜は無菌・無農薬のため水洗いする必要がなく、一口食べると苦みのない甘い食感が広がる。……昨年8月に稼働した福井県美浜町の大型工場では太陽電池とLED照明を組み合わせた実験を開始している。電力のない砂漠でも栽培できる野菜工場として、中東で受注活動も始めた。」(TVでやっていたのはこの福井工場だったか? こちらはたしかに三菱の技術でやっているようだから)
 
 水耕栽培の工場みたいなところで作られているのはカイワレくらいかと、「O157騒ぎ」(96.7大阪・堺市の学校給食での被害のとき一時カイワレ大根が「犯人」扱いされて風評被害を呼んだ)のときには思っていたが、今や水耕栽培は葉モノばかりか稲や小麦、根菜類にまで実に多岐に渡っているようだ。(一部は特殊な土を使用) 進出企業も食品会社ばかりか、化学、商社もからんでこちらも多岐に渡っている。
 密閉した室内で、水も空気も光もすべて管理したところで行うため、外界の影響をほとんど受けない。水(培養液)は浄化して循環させているため使用量は通常の1/10程度で済む。さらには二酸化炭素を倍にしたり、光の波長(色)を加減することによって、よい特徴を引き出すことができるのだそうだ。

 これからの世界での食料確保、農業のあり方を考えるとき、この試みは有意義に違いない。日本国内のみならず世界に向けての商売として十分成立するだろう。土地に縛られず、コンテナ一個でどこでも農産物を作れる。「月面でレタス」さえ夢ではない。

 だが、疑問もある。
 培養液は単に作物に栄養を供給する役目だけではあるまい。「連作障害」を思い浮かべればわかるが、植物は微量であれ土壌に何らかのものを排出している。いわば土壌とのコミュニケーションをはかっている。場所場所で微妙に違う土壌の栄養や微生物、それらと色々な調整を図りながら大きくなる植物―—そういうイメージをコンテナ栽培は覆す。あらゆる条件が一律に均(なら)されることが何を帰結するか、私には正確に語ることは難しいが、比喩的に言うなら「ひ弱」で「腑抜け」な野菜を大量に作ることになるような気がする。今までもそれぞれの個体の持つ個性は商品としての野菜ではマイナス扱いされてきたその路線の徹底だから、仕方ないことかもしれない。だが、疑問は残る。
 30年ほど前、三里塚(千葉)から野菜を取り寄せていたことがある。形も大きさも不揃いで泥だらけだったが、それらのもつ野趣には生命力を感じさせるものがあった。それに美味かった。人参には人参らしい味わいがあった。(人参嫌いの人にはこれが堪えられないのだろうが 笑)
 家人の実家は東北地方の日本海側の山の麓だが、そこの畑から採って来て食べるトマトはこちらのものとはまるで別ものであった。私はトマトはどちらかというと苦手だったのだが、美味くて毎日何個も頬張ったものだ。

 カイワレにO157容疑がかかった(結局は無罪だったようだが)のは、水耕栽培で使っている水の汚染が疑われたからであった。
 コンテナ栽培でも培養液がウィルスや菌に汚染されたときには一台全滅ということも考えられるし、汚染野菜が商品として大量に出回る危険性も考えられる。それに土壌微生物を排除した培養液では何か大事なものが失われる危険性があるのではないか。また、LED光をコントロールして「野菜にいい」光を調節できるという触れ込みだが、太陽光より優れた光を作り出せるというのは人間の奢りではないだろうか。空気もコントロールするようだが、空気中に発散される植物からの微量ガス(光合成によるCO2とO2の交換は良く知られているが、それ以外の)をどのように扱うかは難問だろう。

 未だ十分に解明されていないのかもしれないが、厳しい環境とのコミュニケーションを通じて育った作物にエネルギーが溜まっていて、それを摂取することによって人間もパワーを得る、という循環を維持していくことも考えなければならないと思うのだが、コンテナ栽培は、環境と作物との相互作用を根底的に変えてしまう点で、希望を感じるとともに不安も拭えないと思うのだ。

 宇宙食によって育つのは新人類ならぬ宇宙人になりそう(笑)。

|

« 電気の危険ゴミ | トップページ | ケニアの青い空 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/197611/46576001

この記事へのトラックバック一覧です: 月面レタス:

« 電気の危険ゴミ | トップページ | ケニアの青い空 »